相談の背景
M&Aで買収を検討している会社の買収監査(デューデリジェンス)を行っています。
買収監査で粉飾決算が疑われるような、在庫の水増しや翌期の売上を前倒し計上するなどの経理処理が発覚しましたが、売り手経営者は粉飾決算をしているという意識が低いようです。
質問
粉飾決算の疑いがある会社を買収する場合にはどのような点に注意すればよいでしょうか?
回答
粉飾決算の内容を十分に把握した上で買収のメリットが粉飾決算のリスク(デメリット)を上回るかどうかで買収するかどうかを判断する必要があります。
余談ですが、粉飾決算をしており実態が債務超過&赤字の会社を粉飾決算を承知した上で買収した案件を過去に担当したことがあります。
架空の売上計上や金融機関借入の改ざんなど悪質な粉飾決算は論外ですが、決算期末前後に在庫や売上の計上時期を今期と翌期に振り分けることで利益調整を行っている中小零細企業は散見されます。
その利益調整を売り手と買い手が粉飾決算と考えるかどうかはあまり問題ではなく、売り手がどのような会計処理をしているのか買い手が正しく理解することが重要です。
正しい会計処理をしていると思っている売り手に対して、買い手が一方的に「粉飾決算をしている!」と指摘すれば売り手は気分を悪くするでしょう。
実際に買収監査で担当した会計士が売り手経営者に「粉飾決算だ」と発言したことから売り手経営者が激怒し、取引自体が無くなったケースもあります。
売り手と買い手で考え方が違うのは当然で会計処理や売上・在庫の計上時期も違う場合がありますので、買収監査においては、正しい正しくないという観点だけでなく、売り手と自社(買い手)の会計処理にどのような違いがあるかという観点が大切と考えてます。
売り手と買い手がお互いの考え方の違いを理解した上で、商品在庫の価値や営業権など金銭的に折り合えるものは株価(売買対価)で調整し、将来的に税務調査を受けた場合の追徴課税など現時点ではリスクを金額に置き換えられないものは、M&A後にリスクが表面化した場合の売り手と買い手の責任分担などをM&A契約書で細かく決めておくことが必要です。
また、通常の株式売買スキームではなく、リスクを売り手側に残すような会社分割スキームも検討する必要があるでしょう。